コラム

2026.08.28

【管理職候補が育たない会社が、管理職不足を防ぐ3つの打ち手】

この記事の結論

  • もし、次の管理職にと考えていた社員に打診して、「今のままでいいです」と返されたら。管理職候補が育たないという悩みは、こうした場面を入口にして表に出てくる。
  • 私たちは、原因は能力より先に「手を挙げたい人が少ない」ことと「準備の機会がない」ことの重なりにある、と考える。
  • 打ち手は3つ。候補を早めに見える化し、OJTの外に研修を設計し、昇格後に孤立させない。
  • 明日やることは1つ。候補になりそうな社員1人に、「管理職という仕事にどんな印象があるか」を30分聞く。

管理職不足の正体は、ポストの数ではなく「手を挙げる人」の数

管理職不足とは、管理職のポストの数に対して、その役割を引き受ける意思と準備のある人が足りない状態のことだ。数が足りないという言い方をするが、実際に欠けているのは「意思」か「準備」のどちらか、あるいは両方になる。

意思の側から見てみよう。ビジネスコーチ株式会社が2023年7月に公表した「昇進・昇格に関する社員意識調査2023」では、従業員500名以上の企業の一般社員500人(役職なし、主任、係長)のうち、79.6%が管理職になりたくないと答えた。調査期間は2023年5月29日から6月4日だ(出典1)。

読み方には断りがいる。民間企業が行ったインターネット調査で、対象は大企業の社員だ。成長企業の現場にそのまま当てはまるとは限らない。それでも、「管理職になりたくない」が少数の気まぐれとは言い切れない規模で出ていることは、頭の隅に置いておいたほうがいい。

ここから先は私たちの見解になる。断る社員を責めても、何も動かない。目の前にいる管理職が、責任は重く、時間はなく、上と下に挟まれているように見えるなら、尻込みするのは筋が通っている。だとすると、管理職候補を育てる仕事は、スキルを教える前に、役割の見え方を変える仕事でもある。この記事の背骨はここだ。

「管理職 不足」への短い答え

原因は三つに分けて考えられる。候補が見えていない(見える化の不足)。候補の準備が進んでいない(研修と経験の不足)。昇格した人が続かない(支援の不足)。後の3つの打ち手は、この三つに一対一で対応している。

管理職候補とは誰か。成績上位者とは別の話

管理職候補とは、将来の管理職ポストを任せる前提で、役割に必要な行動と経験を計画的に積ませている社員のことである。「優秀だから」という理由だけで名前が挙がっている段階は、まだ候補ではない。成績の良い人、というだけだ。

プレイヤーとして成果を出す力と、チームに成果を出させる力は、似ているようで使う筋肉が違う。ここを混同して登用すると、本人が苦しくなる。

観点プレイヤーとして評価される点管理職に求められる点
成果の出し方自分の担当を高い品質でやり切るメンバーが成果を出せる状態をつくる
時間の使い方自分の作業に集中する相談、調整、面談に時間を割く
失敗との向き合い方自分で巻き取って解決する任せたうえで、起きたことから学ばせる
情報の扱い自分が把握していればよい上と下、他部署の間をつなぐ
評価のされ方成果物で測られる部下の成長とチームの成果で測られる

右側の列が、候補を見極めるときの「ものさし」であり、育てるときの「課題リスト」にもなる。左側が得意で右側が未経験なら、育てる余地があるというだけのこと。そこから先は、会社の仕事だ。

「経験すれば育つ」を、そのまま信じにくくなった

上司の背中を見て、真似て、失敗して覚える。かつてはそれで回っていたのかもしれない。

いまは、背中が見えにくい。リモートワークやフレックスで、上司が1on1で何を話しているのか、若手には見えない。働きがいや安心して発言できる環境を重んじる若手が増えたと、私たちは感じている。評価面談で「頑張れ」だけを伝えても、納得は得にくい。意思決定、チームづくり、課題解決を同時に求められる場面も増えた。

経験が不要になったわけではない。経験を意図して設計しないと、管理職としての経験にならなくなった。以下の3つの打ち手は、その設計の話になる。

管理職候補を育てる3つの打ち手

打ち手① 候補を早めに見える化する

ポストが空いてから後任を探すと、育成の時間がない。まず必要なのは、「誰を、いつまでに、どんな状態にするか」を紙に書くことだ。

タレントマネジメントとは、社員一人ひとりのスキル、実績、強み、志向、伸びしろを把握し、配置や育成に活かす人材マネジメントの仕組みのことである。専用システムがなくても、最初の一歩は踏める。

サクセッションプランニングは、ポストから書く

サクセッションプランニングとは、将来の重要ポストについて、後継者の候補をあらかじめ考えて育てておく取り組みのことだ。年に1〜2回、経営層、人事、現場責任者で集まり、3年後・5年後に必要になるポストを挙げる。

順番にコツがある。候補者の名前より先に、ポストと、そのポストに必要な経験を書く。名前から入ると、「あの人は優秀だから」の話に流れる。次の表を1ポストにつき1行で埋めると、足りないものが見える。

ポスト必要な経験現時点の候補足りない経験次に任せる役割
例)開発部の責任者複数案件の優先順位づけ、評価面談、採用への関与(空欄でもよい)評価面談を担当した経験新人1名の育成担当

候補の欄が空欄でも構わない。空欄のポストが見えること自体が、成果になる。

管理職に必要な行動を、場面の言葉に落とす

コンピテンシーとは、成果を出す人に共通して見られる行動の特性のことである。「観察力」「育成力」と書いても、面談では使えない。「メンバーの様子がいつもと違うときに、自分から声をかけている」まで落として初めて、選抜にも評価にも使える言葉になる。

全部は要らない。自社で「これがなければ任せられない」という行動を3〜4個選び、一つずつ場面の言葉に書き換える。

キャリア面談で、本人の意思と不安を聞く

会社が「次の管理職」と考えていても、本人が別の道を考えていることはある。だから、打診の前に聞く。ここが、手を挙げる人を増やす最初の場所だ。結論を迫らず、次のように聞いていく。

聞くこと聞く理由答えを聞いたあとの手がかり
管理職という仕事に、どんな印象があるか役割の見え方のずれを知る印象の出どころが身近な管理職なら、昇格後支援(打ち手③)の設計に回す
一番不安なことは何か責任の重さか、時間か、評価か、を切り分ける切り分けた不安ごとに、研修(打ち手②)か仕事量の調整かを選ぶ
どんな支援があれば挑戦しやすいか本人が欲しい支援を先に知る支援の約束を、面談の場で具体的な形にする
管理職以外に、望む働き方はあるか別のキャリアを選ぶ余地を残す専門職など、別の道を用意できるかを検討する

「管理職になりたくない」という答えが出ても、そこで終わらせない。責任の重さなのか、報酬なのか、今の管理職の働き方への違和感なのか。理由が分かれば、役割の切り分けや支援の設計で解けるものと、本人の希望を尊重して別の道を考えるものに分かれる。個人的には、この面談でいちばん価値があるのは、答えそのものより、会社がきちんと聞いたという事実だと思う。

打ち手② OJTの外に、研修を設計する

現場で経験を積む、という考え方は間違っていない。ただ、OJTだけでは身につきにくいものがある。1on1とフィードバックの技術。部下の力を引き出す問いかけ(コーチング)。目標の立て方と進み具合の確かめ方。評価面談の進め方。安心して意見を言えるチームのつくり方。ハラスメントの防止とコンプライアンス。自分の仕事とマネジメントの仕事の優先順位づけ。

これらは、失敗の代償が部下に回ってくる種類のスキルだ。本人が一人で試行錯誤する前に、練習の場を用意するほうが、本人にも部下にも誠実だと思う。

昇格の前、直後、後で、役割を変える

一度に詰め込むより、時期で役割を分けたほうが身につきやすい。

フェーズ目的主な内容形式の例
昇格前役割のイメージを持ち、不安を減らすリーダーシップの基礎、コミュニケーション、キャリアの意識づけ集合研修、ワークショップ
昇格直後実務の型を持つ目標設定、評価、1on1、部下育成、労務管理の基本集合研修、個別コーチング
昇格後現場の課題を持ち寄って磨くケーススタディ、課題共有、振り返り、応用スキル社内勉強会、eラーニング、ピアラーニング

研修の前と後を、企画の段階で決める

内容の良い研修を選ぶことと同じくらい、研修の前後に何を置くかで定着が変わる。研修後1か月以内に実践課題を1つ決める。上司が実践の状況を見て、フィードバックする。3か月後に振り返りの場をつくる。成功も失敗も、管理職同士で共有する。この4つを、研修の日程と同時に予定へ入れてしまうのがいい。外部の研修を使う場合も、前後は自社で決めることになる。

【取材待ち:Achieve Tech IT教育部と09教育開発に、管理職・上流工程向けの研修を設計するとき、昇格前後で何をどの順で扱う想定かを聞く。聞き取りが済むまで本節は一般論のまま】

打ち手③ 昇格後に、孤立させない

昇格した直後の管理職は、部下の相談、上司の期待、自分の仕事、チームの成果責任を一度に受け取る。ここで「一人で何とかするもの」という空気があると、悩みを抱え込み、成果が落ち、燃え尽きる人も出る。

もう一つ、見過ごせない点がある。その姿を、次の候補者が見ている。昇格後の支援は、いまの管理職を守るだけの施策ではない。次の候補者に「管理職という仕事はこう支えられている」と見せる場でもある。打ち手①の「手を挙げる人がいない」に、ここで戻ってくる。

相談相手を一人つける

経験のある管理職や経営幹部がメンターになり、月1回程度、話を聞く。部下の育成、評価のフィードバック、上司との関係、プレイヤーの仕事との両立、自分の迷い。何を話してもいい場にする。メンターは答えを出す人でなくていい。聞く人であればいい。

同じ立場の人と学び合う

部下のやる気が下がったときの対応、リモート環境での1on1の工夫、評価面談で部下が納得しなかったとき。同じ立場の人にしか通じない悩みがある。定期的に集まって話す場をつくると、「自分だけではない」と分かる。他部署のやり方を知れば、自分のチームで試せるヒントも見つかる。ここで出た事例は、次の研修の素材にもなる。

人事が定期的に状況を聞く

昇格直後の3か月は月1回、その後は四半期に1回を目安に、人事が1on1を行う。見るのは、業務の負荷が過剰でないか、部下との関係で悩んでいないか、評価や目標設定に不安がないか、上司から十分な支援を受けているか、本人の意欲が落ちていないか、の五点だ。

人事が少人数の会社では、全部は回らないと感じるかもしれない。その場合は、社内教育の仕組みを軽くする考え方をまとめた人事担当者1人でも大丈夫!少人数でも回る社内教育の仕組み化5つの方法が参考になる。

自社の見解:管理職の準備は、昇格の前から始められる

Achieve Techは、Java研修から始まった人材育成サービスで、一人ひとりに寄り添うコーチング型のOJTを掲げている(出典2)。その立場から、見解を一つ述べる。

管理職の仕事の中心は、人を育てることだ。だとすれば、候補になる人には、昇格の前に「人を育てる側」を一度経験してもらうのがいい。後輩の指導役やOJTの担当を、管理職の予行演習として位置づける。うまくいかなくても、失敗の代償が小さいうちに学べる。この考え方は、打ち手①の「次に任せる役割」にも、打ち手②の昇格前研修にも、そのまま使える。

これは事実の報告ではなく、私たちの見方だ。現場での検証は、これから重ねていく。

【取材待ち:Achieve Tech IT教育部の講師・研修担当に、「後輩の指導役を初めて任された社員が、最初につまずく場面」と「そこで講師が伝えていること」を聞く。個人や顧客が特定されない形で、本人の了承を得て反映する】

つまずきを見分ける3つの目安

打ち手を並べると整って見える。けれど、整った計画ほど、内側で崩れていることに気づきにくい。次の表は、頻度の話ではなく、自社で確かめるための目安だ。論理から整理したもので、調査に基づく数字ではない。

つまずきこんな状態なら要注意見直す場所
研修を実施して終わっている研修の満足度は良いが、1か月後の現場の行動が誰にも確認されていない。上司が研修の内容を知らない打ち手② 研修の前後
候補の意思を聞いていない打診が人事からの通達で、本人が聞かれたことは一度もない打ち手① キャリア面談
管理職の評価基準が曖昧昇格の理由を聞くと、役員ごとに答えが違う打ち手① コンピテンシー

三つ目だけ補足する。評価基準が曖昧なまま登用すると、選ばれた本人にも、選ばれなかった周囲にも、納得が生まれにくい。役割、行動、昇格の基準、評価の観点、育てるべき能力の五つを文章にしておくと、選抜から評価まで同じ物差しで通せる。「どうすれば管理職として成長できるか」が見えると、手を挙げる人も増えやすい。

また、エンジニア職からマネジメント職への転換ということが多い業界です。
単純に戸惑うことも多く、人手が少なくどこに聞けば良いのかわからないという当事者の言葉が聞こえてきます。

まとめ:管理職候補を育てるとは、手を挙げる人が出る条件を整えること

管理職不足は数の問題に見えて、そこへ至る経路は三本ある。候補が見えない。準備が進まない。昇格後に孤立する。打ち手はそれぞれに一つずつ当たっている。全部を同時に始める必要はない。次の3つの問いに答えてみて、詰まったところから手をつければいい。

  • 管理職候補の名前を、3人挙げられるか
  • 管理職に必要な行動を、自社の言葉で説明できるか
  • 新任管理職が相談できる相手は、社内にいるか

明日やること、1つだけ

候補になりそうな社員を1人選び、30分もらう。そして「管理職という仕事に、どんな印象を持っているか」を聞く。説得はしない。昇格の話も出さない。聞くだけでいい。

その30分で、手を挙げる人がなぜ少ないのかの手がかりが見える。印象の出どころが身近な管理職なら昇格後の支援から、不安が責任の重さなら研修の設計から、というように、打ち手の着手点も決まってくる。

聞いたあとに、「どの打ち手から、どう手をつけるか」を整理したくなったら、Achieve Techの問い合わせ窓口で相談できる。相談種別は「研修内容について」を選べる。研修の相談と見積もりは無料だ(出典3)。入力が必要なのは、会社名、部署名、担当者名、電話番号、メールアドレスの5項目で、相談内容の欄は任意になっている。

管理職候補の育て方について、無料で相談する

よくある質問

管理職候補が一人もいない小さな会社は、どこから始めればよいか?

候補を探す前に、いまの経営者や責任者の仕事を棚卸しして、手放せる役割を一つ選ぶ。その役割を、候補になりそうな社員に任せるところから始めるのがいい。ポストを増やすより、役割を一部渡すほうが、本人も負担を見積もりやすい。

管理職を外部から採用する方法と、社内で育てる方法は、どう使い分けるか?

外部採用は、空いたポストを早く埋めやすい。一方で、自社の文脈を覚えるまでに時間がかかる。社内育成は時間がかかるが、会社の判断軸を知っている人が育つ。短期の穴は採用で、中期の核は育成で、と役割を分けて併用するのが現実的だと私たちは考える。

プレイングマネージャーの負担が重く、研修の時間がとれないときは?

研修を足す前に、仕事を一つ減らす。研修の時間だけを増やすと、研修が負担の追加として受け取られ、実践まで届かない。勤務時間内に研修の枠を確保し、その分の担当業務を誰かに振る。この決定は、本人ではなく上司と経営層が行う。

管理職の処遇を上げれば、なりたい人は増えるか?

処遇の見直しは検討する価値がある。ただ、それだけで解けるかどうかは、「なりたくない理由」が何かによって変わる。理由が責任の重さや時間の問題なら、処遇を上げても残る。まずは理由を聞き、報酬の問題か、役割の問題かを切り分けてから、手を打つといい。

出典

  1. ビジネスコーチ株式会社「昇進・昇格に関する社員意識調査2023」(プレスリリース、2023年7月27日公表。調査期間2023年5月29日〜6月4日。対象:従業員500名以上の企業の一般社員(役職なし、主任、係長)500人、課長以上566人。実施:ネットエイジア株式会社のインターネットモニター)。一般社員500人中79.6%が「管理職になりたくない」と回答。2026年10月14日確認。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000040945.html
  2. Achieve Tech トップページ「Achieve Tech|人が育つコーチング型OJT・IT研修」。2026年10月14日確認。https://achievetech.atimes.co.jp
  3. Achieve Tech トップページ内のよくある質問「研修の相談や見積もりは無料でしょうか?」。2026年10月14日確認。https://achievetech.atimes.co.jp